後藤 亮馬(大分銘菓の語り部)


プロフィール

1990年生まれ。大分県臼杵市出身。臼杵煎餅を製造・販売する創業102年の老舗「後藤製菓」の5代目。小さい頃から夢だった家業を継ぎ、大学卒業後入社。新ブランドIKUSU ATIO設立後、わずか半年で売上140%達成。調味料ジンジャーパウダーで農水省のフードアクションニッポンアワード受賞。臼杵煎餅・有機生姜の可能性を信じ日々邁進、臼杵煎餅の宇宙食化へ向けて挑戦中。

【後藤製菓ホームページ】 

https://usukisenbei.com/


臼杵生まれ 臼杵育ち せんべい王子誕生

● 子ども時代の思い出は?

子どもの頃は、自宅の隣が工場だったので毎日煎餅が焼けるいい匂いがしていました。臼杵煎餅は大好きでよく食べていました。後藤製菓は1919年に祖父が創業し、祖母は看板娘として97才まで頑張ってくれていて、父が4代目。家族みんなで家業に携わっていたので商売をすることは日常の風景でした。そんな環境で育ったこともあり、子どもの頃から大きくなったら後藤製菓で働きたいと思っていました。8歳の頃に、小学校で20年後の自分に宛てた手紙をタイムカプセルに入れて、先日開封をしましたが「後藤製菓を継いでいる」と書かれていて、当時からずっと同じ気持ちだったんだなと再確認しました。


タイムカプセルの原稿用紙

20年後のわえ  三年 後藤 亮馬

わえは、後藤せいかをついている。そしてじゅうぎょういんをやとっている。「しょうばいはんじょう」新しいかしをつくっている。そして、おおもうけ。いつもはいたつにいっている。イエーイ



● 臼杵以外に住んだことはありますか?

生まれた時からずっと臼杵市在住の生粋の臼杵人です。大学は大分大学でしたが、実家から通っていました。卒業後は後藤製菓に入社して、製造や営業、商品開発などを経験し、今年の7月に父の跡を継ぎ代表取締役になりました。ずっと臼杵にいますので愛着は深いです。逆に視野が狭くならないように、積極的に色んな場所に出かけて、色んな方々と交流するよう心がけています。ニックネームの“せんべい王子”は20代の頃、配達先のスタッフさんに付けていただきました。当時は“王子”なんて…と照れていましたが、覚えてもらいやすいので、今はどんどん活用しております。


江戸時代の保存食が時を超え大分銘菓へ

● 臼杵煎餅はいつからあるんですか?

今から約400年ほど前、臼杵藩主稲葉領主が江戸参勤交代の途上の食料として、米・麦・粟・ひえ等を材料に作り上げた保存食が臼杵煎餅の始まりと言われています。その後、小麦粉が主原料になり、かつては臼杵市で生姜がたくさん栽培されていたことから味付けに生姜が加わりました。生姜と砂糖で作った蜜を、刷毛で一枚ずつ丁寧に手塗して仕上げる伝統製法を後藤製菓では受け継ぎ、創業以来100年以上製造しております。現在、臼杵煎餅を作っている会社は当社も含めて大分県内に6社あります。おかげ様で後藤製菓が現在業界シェア1位となっております。各社それぞれの味の臼杵煎餅を楽しめます。

時代に即して挑戦を シン臼杵煎餅

● 臼杵煎餅以外にはどんな商品がありますか?

伝統を大切にしながらも、時代に即して新たな臼杵煎餅を継続的に作り出しています。例えば、「固くて食べ辛い…」という声を受けて、やわらか食感の『うすきせんべい・生さんど』や洋風サクサクの『臼杵せんべいサブレ』などを作りました。2019年には、創業100周年記念ブランドとして『IKUSU ATIO(イクス・アティオ)』を完成。サイズを小さくし、様々な味のバリエーションを展開。後藤製菓は箱も製造しているので、箱の材質や形にもこだわりました。ネーミングには『小さな町、臼杵から大分、日本、そして世界へ向けて発信していく』という気持ちを込めて、臼杵を逆から読むようにしました。また、お菓子だけはなく、臼杵煎餅を構成する“生姜”にスポットを当てた商品もあります。煎餅の製造工程で生じた臼杵産有機ショウガの搾りかすを再生させた調味料『ジンジャーパウダー』です。年間2トンの廃棄ロスがなくなり、環境への取り組みが評価されて、農林水産省主催の「フード・アクション・ニッポンアワード2020」の受賞産品に選ばれました。

コロナ禍での自問自答の日々と希望の光

● コロナ禍の影響はいかがですか?

人の流れが止まり、観光が止まり、観光土産である臼杵煎餅の売上も減少…。昨年春の緊急事態宣言を受けて、やむなく1ヶ月半ほど休業することにもなりました。休業期間中に、「はたして、これからどうやって売上を作り出せば良いのか…」と、ひたすら自分と向き合いました。「何のために後藤製菓は存在するのか」「これからどうあるべきなのか」「地域とどう関わっていくのか」…、自問自答の末、やりたいことが明確になってきました。

● 明確になったやりたいこととは?

臼杵煎餅の可能性を広げることです。コロナ前は、“観光土産”の一本槍でやってきましたが、コロナ以降、“観光土産”だけでやっていくことのリスクを実感しました。かといって、全く新しいことをやろうとは思っていません。本質を大切にしつつ新たなことを取り入れる『不易流行』の精神に沿って、臼杵煎餅という経営資源の強みを分解し、コンテンツ化してさらに可能性を広げることにしました。例えば、強みのひとつとして“保存食”があります。臼杵煎餅のルーツは江戸時代の保存食です。自然災害が多発する現代で、ニーズが高まっているのは、防災アイテムの保存食。従来の観光土産やお菓子としての存在意義に加えて、保存食としての強みも活かせるのではないかと考えています。さらに、保存期間を長くすると、海外での販売の可能性も広がります。強みのひとつである、日本の伝統的な食文化“煎餅”の強みも発揮され、臼杵から世界への販売にもつながります。また保存期間の長期化を追求すると“宇宙食”の可能性も広がりますので、臼杵から世界へ、宇宙へお届けできるように頑張っていきたいです。


地域の『人・自然・町』に恩返しをしたい

● これからどんな会社を目指しますか?

私たちを育ててくれた、臼杵・大分をはじめとする地域の『人・自然・町』に恩返しができるような会社になりたいです。具体的には今年の元旦に『働き方改革』『地方創生』『地域貢献』『環境保全』、以上4つのSDGs宣言を行いました。『働き方改革』では、一人一人のライフスタイルに合った、柔軟で働きやすい職場環境の整備を目指します。また、積極的に福祉雇用を促進するとともに、伝統製法を守り、地域の雇用を守ります。『地方創生』では、地産地消を心掛け原材料の見直しを行い、地元農家との契約栽培を通し有機素材を積極的に仕入れ有機農業推進を行うことで、食の安全と自然、町の産業を守ります。『地域貢献』では、銘菓「臼杵煎餅」の学校給食寄贈や体験学習、地域コミュニティとの積極的な関わりを通して歴史、文化、魅力を人々に伝承し、地元愛を抱く人材の育成に寄与します。『環境保全』では、年間数トン廃棄していた有機しょうが搾汁後の副産物を原料として再活用した商品を作り、有機しょうが年間廃棄量を0にすることをはじめ、積極的にフードロス削減の取り組みを行います。以上4つの目標の達成を目指して、後藤製菓がさらなる発展を遂げることで、地域の「人・自然・町」に大きな恩返しができるように頑張っていきたいと思います。